お眠りになれないので、源氏の君は横に寝ている小君
に、 「わたしはこんなに人に嫌われたことは一度もなかったのに、今夜という今夜は、はじめて恋は辛いものだと、つくづく思い知らされてしまった。もう恥ずかしくて、生きているのもいやになってしまった」 と、おっしゃいます。小君は、思わず涙さえこぼしながら横になっています。 そんな小君を、なんと可愛い子だと源氏の君はお思いになります。抱き寄せたあの女の体つきが手さぐりの掌に細っそりと小さく感じたのや、あまり長くなかった髪の手触りなどが、気のせいかこの子の感じによく似ているように思われるのも、しみじみいとおしさをそそられます。 これ以上しつこく付きまとって、強いて捜し出して言い寄ったりするのも、いっそう恥の上塗りになるだろうと思われて、心からひどい女だと恨みつづけながらまんじりともせず、夜を明かしておしまいになりました。 いつものようには優しいお言葉を小君にかけておやりにもならず、まだ暗いうちにお帰りになりますので、小君はお気の毒でならず、また物足りなくも、淋しくも思うのでした。 女もその後、一方ならず心がとがめていましたが、源氏の君かだのお便りはあれっきり、ふっつりと絶えてしまいました。さすがに、お懲こ
りになられたのだろうと思いながらも、 「もしこのまま、お怒りになってあきらめておしまいになったら、どんなにか辛く悲しいだろう。かといって、あの御無体な困ったお振舞が、この後もつづくとしたら、いたたまれないことだし、やはろ、このあたりでこんな密みそ
か事は打ち切ってしまわなければ」 と思うのです。それでもやはり心はおさまらず、ともすれば暗く沈みがちなもの思いに捕われていくのでした。 源氏の君は、あまりにもひどい女だとお恨みになりながらも、このままでは思いきれないと、心にかかり、不面目なことだと口惜しがり悩んでいらっしゃいます。小君に、 「あの人の仕打ちがあんまりひどくていまいましいので、無理にもあきらめようとするのに、心がいうことをきかないで、どうしてもあきらめきれない。苦しくてたまらないから、もう一度逢えるよう、何とかいい機会をつくっておくれ」 と、くりかえしおっしゃいます。 小君は当惑しながらも、こんなことででも源氏の君から親しく相談されるのは嬉しいのでした。子供心にも、なんとかしていい折はないものかと窺がっています。
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