「わたしは、ひとつ馬鹿な男の話しをしましょう」 と言って今度は頭の中将が、話しだしました。 「ごく内密にして通っていた女が、長つづきしてもいいほど気に入りました。 馴染
みが深くなるにつれて、女に可愛さも増して、ますます惹かれていったので、とぎれがちだけれど通いつづけていました。 そうなると、女の方でも、わたしを頼りにする様子が見えてきました。それでも浮気はやめられないので、女は恨めしく思うこともあるだろうと、我ながら思いやる折々もあったのですが、気にしないふりを装って、女は長い間私の通う日が途絶えても、怪しむわけでもなく、ただもう朝に夕に、心からわたしに仕えようとつとめているのがよくわかって、不憫だったので、行く末長く私を頼りにするようになど、慰めたりしていました。 女は親もなく、心細い境遇なので、なにかにつけてわたしを頼りにしている様子が見えました。 それがとてもいじらしかったのでっす。 ところが、女のおっとりと優しいのをいいことにして、久しく訪ねてやらないでいたら、わたしの妻の方から、思いやりのないひどい脅迫がましいことを、人を介していってやったらしいのです。すべては後で聞いたことでした。 こちらはそんないやな目に遭っていようとは露知らず、心ではいつも忘れずにいながら手紙も出してやらず、長い間放っておいたものです。 女はすっかり気落ちして、心細くなったのでしょう。わたしたひの間に幼い子供があったことから思案にくれて、撫子なでしこ
の花を添えた手紙を寄こしました」 と言いながら、頭の中将は涙ぐんでいます。源氏の君が、 「それで、その手紙には何と」 とお訊ききになりますと、 「いえ、まあ、格別のこともありませんでしたよ。 |