終日、しとしとと、所在なく雨が降りつづけたまま、しめやかな宵になりました。 宮中では殿上
の間ま にも殆ど人影がなく、源氏の君のお部屋も、いつもよりはのどかな気分がしますので、燭台の灯を近く引き寄せて書物など御覧になっていらっしゃいました。 その夜も御一緒だった頭の中将は、傍らの厨子ずし
の中にある、色さまざまな手紙を、たくさん引き出しては、しきりに読みたがっています。源氏の君は、 「それじゃ、さしつかえのないものを少し見せますよ。中にはみっともないものもあるから」 と、おっしゃりながら、なかなか見せようとなさいませんので、頭の中将は、 「その打ちとけて書いた、あなたが具合が悪いと思われる手紙こそ拝見したいですね。ありふれた平凡な恋文などは、わたしのようなつまらぬ者でも、それ相応にやり取りして見ていますから。それぞれのお相手が、あなたの冷淡さを恨んでいる折々のとか、あなたの訪れを待ちかねている夕暮れに書いたものなどこそ、見る値打ちがあるのです」 と、恨みがましくせがむので、仕方なく出してお見せになります。けれども高貴の方からの、絶対に人には見せられない秘蔵のものなどは、こんなところに無造作に置いておく筈もありません。どこかへ深く隠していらっしゃるにちがいなににですから、見せられたのは、まあ、さしつかえのない二番手の気のおけないものばかりなのでしょう。 頭の中将は、片端からそれを拾い読みして、 「よくまあ、いろいろな手紙が集まっているものだ」 と言いながら、あて推量に、 「これはあの人ですね、こちらはあの方ですか」 などと訊くうちに、うまく言い当てるものもあれば、とんでもない見当外れな相手を想像して、疑ったりする手紙もあって、源氏の君はおかしがっていらっしゃいますが、言葉少なに、何かといいまぎらせながら、手紙をみんな隠しておしまいになりました。 「あなたこそ、たくさん集めているでしょう。少しは見せてほしいですね。そうしたら、この厨子だって気持ちよく開けますよ」 とおっしゃると、 「いや、いや、お見せするほどの値打ちのあるものなんかはないですよ」 などといっているうちに、だんだんと女の話しになりました。 |