光源氏、光源氏などともてはやされ、その名だけはいかにも仰々しく華やかですけれど、実はあれこれ、世間からそしりをお受けになるようなしくじりも、少なくはなかったようでした。その上また、こうした色恋沙汰の数々を、後の世まで語り伝えられて、軽々しい浮き名を流されるのではないかと、ご本人としては、つとめて秘密にされていた内緒の情事まで、あばきたて、語り伝えた人がいたとは、なんとまあ、口さがないことでしょう。 それでも源氏の君はずいぶん世間に気がねなさり、表向きは真面目らしく装っていられたので、そてほど艶っぽい面白いお話などはなかったのです。あの物語の、好色で有名な交野
の少将しょうしょう などからみれば、一笑に付されてしまわれたことでしょう。
まだ官位も近衛このえ
の中将ちゅうじょう などでいらっしゃった頃は、宮中にばかりまめに出仕なさって、舅しゅうと
の左大臣家には、たまにしかお出かけになりません。あちらでは、もしやほかに内緒でお好きな女でも出来たのではないかと、お疑いになることもありましたが、源氏の君はそんな手軽なありふれた出来心の情事などは、もともとお好みでない御性分なのです。ただまれには、強いて苦労の種になるような恋を、ひたむきに思いつめられるという、生憎あいにく
な癖がおありでした。その結果、不謹慎なお振舞も時たま、ないとは言えませんでした。
五月雨さみだれ
が長く晴れ間もない頃、宮中の御物忌おんものい
みが引きつづいたのを口実に、源氏の君はいつにもまして、宮中に長逗留していらっしゃいました。 左大臣は、そんな源氏の君が待ち遠しいやら恨めしいやらで、気を揉みながらも、源氏の君のために、お衣裳や持ち物など、あれこれと新調なさっては、何かにつけてお届けになっていらっしゃいます。 また、御子息の若君たちも、源氏の君の宿直とのい
のお部屋に参上しては、何かとお仕えしています。中でも左大臣と、北の方大宮との御嫡男ごちゃくなん
の頭とう の中将ちゅうじょう
は、源氏の君の一番の御親友でした。音楽やその他のお遊びにも、ほかの人々よりは心易く、馴れ馴れしく振舞っていらっしゃいます。 この頭の中将を四の姫君の婿君として、この上なく大切にもてなしていらsっしゃる右大臣邸には、このお方もまた、気づまりでうっとうしいのか、あまり寄りつからません。もともと多情多感な浮気者でいらっしゃるのです。 お里の左大臣邸の御自分の部屋を、美しくきらびやかに飾り立てて、源氏の君がこちらにお出入の時はおお伴して、夜昼となく、学問も音楽のお遊びも御一緒なさいます。そんな時も頭の中将は、何かと源氏の君に張り合って、結構ひけをとらず、どこへでも連れ立って行かれるのです。 そうした間に自然遠慮がなくなって、お互いの心の秘密も隠しきれなくなり、ますます親しいおつきあいになっています。 |