源氏の君が控えの間に退出されて、参列者の間では御酒宴が始まりました。源氏の君は臣籍に下りましたので、親王たちの末席に着座なさいます。その隣には左大臣が控えていて、それとなく今夜の姫君との婚礼のことを匂わせて、耳うちされましたが、まだ何につけきまりの悪いお年頃なので、お返事のしようもなく当惑していらっしゃいます。
帝のおん前から
内侍
が左大臣の席に来て、
「帝がお召しでいらっしゃいます」
と伝えました。
左大臣が帝のおん前に進みますと、この日のねぎらいの御下賜品は、帝付の
命婦
みょうぶ
が取り次いで賜わりました。白い
大袿
おおうちき
に御衣裳一揃いは、こういう時の
慣例
しきたり
のとおりでした。
帝からお盃を賜わるついでに |
いときなき
初元結
はつもとゆひ
に 長き世を 契る心は 結びこめつや
(いとけなくいとしい者の元服の初元結を
結ぶその時 若いふたりの夫婦の契り長かれと 結びこめただろうか) |
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と、帝は例の添臥しのお心づもりをこめて、念をおされました。 |
結びつる 心も深き
元結に 濃きむらさきの 色しあせずは
(心きめ結びこめた元結に 色鮮やかな濃紫 殿御の心も濃紫 とことわに色あせぬよう
夫婦の契りもこめて添う) |
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と、左大臣はお答え申し上げ、
長橋
ながはし
から庭上に降りて拝舞されました。ここで、
左馬寮
さまりょう
のお馬と、
蔵人所
くろうどどころ
の鷹を
鷹槊
たかほこ
に止まらせたものを拝領いたしました。
御階
みはし
の下には親王たちや
上達部
かんだちめ
が居並び、それぞれの位に応じた
禄
ろく
を賜わります。
その日の帝の御前に供された
折櫃物
おりびつもの
や、
籠物
こもの
の料理などは、
右大弁
うだいべん
が、帝の仰せを承って調進したものでした。
屯食
とんじき
や禄の入った
唐櫃
からびつ
など、置ききれぬほどあふれ、東宮の御元服の時よりもおびただしく、かえって今日のほうがすべてにつけ、この上なく盛大になりました。 |