〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-V』 〜 〜
==武 士 道 ==
(著:新渡戸 稲造 訳:山本 博文)
 

2015/11/11 (水) 

日 本 の 変 貌 の 源 泉

日本の変貌は、全世界に周知の事実である。このような大事業には、さまざまな動機があったが、もしその主要なものをあげるとすれば、武士道だと言うことができる。
日本を外国貿易に開放した時、生活のあらゆる領域に最新の改良を取り入れたとき、また西洋の政治および科学を学び始めた時、私たちの主要な動機は、物質資源の開発や富の増大ではなかったし、ましてや西洋の習慣の猿真似ではなかったのである。
東洋の制度や国民を詳しく観察したイギリスの評論家タウンゼント氏は書いている (メレディス・タウンゼント 『アジアとヨーロッパ』)

われわれは、いかにヨーロッパが日本に影響を及ぼしたかを日々聞かされてきたため、かの島国での変化がまったく自発的であったこと、ヨーロッパ人が日本人に教えたのではなく、日本が自発的にヨーロッパから文武の組織の方法を学ぶことにし、それが今まで成功を収めてきたことを忘れている。数年前、トルコがヨーロッパの大砲を輸入したように、日本はヨーロッパの機械科学を輸入した。それは、正確には影響ではない。(タウンゼント氏は続ける) じっさい、イギリスは中国から茶を買うことによって影響を受けた、とするのではない限りは。(タウンゼント氏は問う) それでは日本を変えたヨーロッパの使徒、哲学者、政治家、扇動者はどこにいるのか。
タウンゼント氏が、日本の変化をもたらした動因がもっぱらわが国民自身の中にあったことを認識したのは、卓見である。そしてもし彼が日本人の心理を深く調査したならば、彼の鋭い観察力は、この源泉が武士道であることをまちがいなく容易に確認しえただろう。
劣等国と見下されることを容認できない名誉の感覚、── それこそがもっとも強い動機であった。財政や産業上の考慮は、改革の過程において後から目覚めてきたのである。
武士道の影響は、今なお誰にもわかるほど明白である。日本人の生活を一瞥すれば、そのことははっきりするだろう。日本人の心をめぐる、もっとも雄弁でかつ忠実な解釈者であるハートンを読んでみてほしい。そうすれば、彼の描く心の動きが武士道の作用の一例であることがわかるだろう。
民衆がどこでもいつでも礼儀正しいのは武士道の遺産であって、周知のことだからくり返すまでもない。 「小さなジャップ」 の身体にあふれる忍耐強さ、不撓不屈の精神、勇敢さは、日清戦争によって十分証明された。 「日本人以上に忠義に厚く愛国心のある国民があろうか」 とは、多くの人が発する質問である。そして 「ない!」 と誇らしく答えることができるのは、武士道の賜物である。
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