〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-V』 〜 〜
==武 士 道 ==
(著:新渡戸 稲造 訳:山本 博文)
 

2015/11/11 (水) 

近 代 日 本 の 指 導 者 へ の 影 響

サンラム氏は言う、 「今日、三つの別々の日本が並んで存在している。── 旧日本はいままだすべては死滅しておらず、新日本はその精神においてやっと生まれたばかりで、過渡的日本は現在もっとも危機的な陣痛を経験している」 と。
この言葉は、多くの点で、とりわけ形のある具体的な制度についてはまさにその通りだろう。しかし、根本的な倫理概念に適用する際には若干の修正がいる。というのは、旧日本を作り、またその所産でもある武士道は、、今なお過渡的日本の指導原理であり、また新時代の形成力であることが明らかだからである。王政復古と維新の暴風の中で、日本という船の舵取りをした偉大な政治家たちは、武士道以外の道徳的教えはまったく知らない人たちだった。
最近、何人かの著者が、新日本の建設に対し、キリスト教宣教師たちが大いに貢献したことを証明しようとした。私は名誉を受けるべき人には喜んで与えたいと思うが、この名誉はいまだ善良な宣教師たちに与えるわけにはいかない。何も確認すべき証拠のない顕彰をするよりも、 「互いに名誉を他に帰するように」 という聖書の戒めを守ることが、彼らの職務にいっそうふさわしいだろう。
私個人としては、キリスト教宣教師たちは、教育の分野、とりわけ道徳教育の領域で、偉大な事業をなしつつあると思う。ただし、神秘的で確かな精霊の働きは、今ナオ神聖な秘密の中に隠されている。宣教師たちの事業は、なお間接的な効果しか与えていない。というより、これまでのところ、キリスト教伝道が新日本の性格形成に貢献した点はほとんど見られない。
そう、善きにつけ悪しきにつけ、私たちを衝き動かしたものは、純粋で無骨な武士道だった。
近代日本の建設者である佐久間象山、西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允の伝記、あるいは伊藤博文、大隈重信、板垣退助ら現存の人物の回顧録を開いてみよ、── そうすれば、彼らの思索および行動が武士道によっていることがわかるだろう。
日本を研究し観察したヘンリー・ノーマン氏は、日本が他の東洋専制諸国と違う唯一の点は、 「人類がこれまで作り上げた中で、もっとも厳格で、もっとも気高く、もっとも几帳面な名誉の掟が、その国民の間に支配的影響力を持つ」 ことにあると断言した。ノーマン氏は、新日本の現在を建設し、かつその将来の運命を切り開く推進力を指摘したのである。

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