厳密な意味での倫理的教義に関して、武士のもっとも豊な源泉となったのは孔子の教えだった。孔子が述べた五つの道徳的な関係、すなわち君臣、父子、夫婦、兄弟、朋友の関係は、彼の著作が中国からもたらされるはるか以前から、日本人が本能的に知っていたことを追認したものにすぎない。 冷静で穏和で、世間というものをよく知っていた孔子の政治道徳に関する格言の数々は、支配階級であったサムライにとって、特にふさわしいものだった。孔子の言葉の、貴族的で保守的な調子は、これら武士階級の政治家によく適合した。 孔子に次いで孟子が、武士道に大きな権威を及ぼした。彼の力強い、ときにきわめて人民主義的な理論は、ものに感じやすい人びとにとっては特に好まれた。 そのため、彼の理論は、現存の社会秩序にとっては危険であり、秩序をくつがえすものとさえ考えられた。彼の著作は長い間、禁書とされていた。しかし彼の言葉は、武士の心の中に永久のすみかを持つことになったのである。 |