私が、乱暴に
「シヴァルリー chivalry」 と訳した日本の言葉は、実は 「騎士の倫理 horsemanship」 というよりも深い意味がある。「武士道」 は、語句の意味で言えば、戦う騎士の道、
── すなわち戦士がその職業や日常生活において守るべき道を意味する。ひと言で言えば、 「戦士の掟」 、つまり戦士階級における 「ノブレス・オブリュー noblesse
oblige (高貴な身分に伴う義務) 」 のことである。 言葉の語義は明らかにしたから、これからは原語でこの語を使うのを許してもらいたい。 原語を使うことは、次のような理由からも望ましい。これほど限定的で、独特な、しかもこれほど特異でわが国固有の気風や性格を生んだ教えは、その風貌に特徴的なしるしを帯びていなければならないからだ。ある種の言葉は、その民族性を大いに表現する国民的な特色を有しているものであり、もっとも優れた翻訳家でも、その言葉の真の意味を伝えることは困難なのである。 たとえば、ドイツ語の
「ゲミュート Gemuth」の意味するところを翻訳で伝えることが出来るだろうか。また、英語の 「ジェントルマン gentleman」 とフランス語のジャンティオム
gentilhomme」 について、言葉としてきわめて似通ってはいるものの、二つの語の間に違いを感じ取らない人がいるだろうか。 |