火の色は、急速に赤さを小さくし、暗紫色な光輪
の暈かさ をぼうと咲かせている。たとえば、ある日の落日の荘厳に似ていた。その中に、おあるじや、いとけない姫ぎみや、みだい所のお姿が、彼の眸にだけ見えた。彼は空想した。おそらく、炎を浴びるまえに、殿のお手の刃が、みだい所と姫ぎみを刺し、殿も同じ刃に伏せられたことであったろう。御苦痛もなく、殿もあのまま御満足なおん眉で、わけて、みだい所は
「── こうして、御一緒に死ねようとは、思いもしなかった倖せです」 と、およろこびすらみせられていたにちがいない。堀川へお輿こし
入れ以来の、さまざまな事情を考えても、きっと、そうであったろうとお察しできる。 鷲ノ尾にも、その想像と、お三方の満足さは、なんの閊つかえ
えもなく、得心できた。そして、義経の心の端が、たれへもつながるその愛情の基が、分かる気がした。 すると、彼の頬を、涙が走り下った。 ── 殿の、しの愛情を大きくしたものが、思えば、都じゅうを、あるいは、国の全土を爛らす戦火をして、ここだけの小さい炎ですませたのだと思い当たった。 また、鎌倉との戦いにでもなれば、何年にわたり、何万にのぼる「かも知れない人命の犠牲をも、おんみずからと、姫ぎみと、みだい所のお命だけで、事すませたのだという意味も、うなずかれた。 「ああっ、殿」 突然、立った。届かないものへ手が追うように。 そして、もいちど、義経から
「── 鷲ノ尾」 と、あの親しいお声で呼ばれたいような衝動にかられたものか、両の手を、宙へ振りさまよわせ、またその両の手を、胸の前に結んで、泣きじゃくった。 なんと、おれはばかな、うつけな。 ほんの一瞬ひととき
でも、なぜおれは今、おあるじを疑ったのか。年来のお仕えも、無意味であったなどと、がっかりしたのか。 思えば、会い難い君にこの世でお仕えしたのだった。この果報を、生きて持ちつづけよう。ほかの面々も、お主の最後のお声を心に抱いて、思い思いみな落ちのびたに相違あるまい。 「そうだ、生きて、よい生涯を遂げることが、これからのお仕えだ。殿っ、どうか、お安らぎください」 彼は、そこへ伏して、生ける日のお人へ告げるが如く言っていた。そして、どこかへ立ち去った。 ──
ほどなく、夜は白んでいた。北上川の水に変わりはないが、御舘みたち
の丘に、御舘は見えなかった。ただ野火ほどな余煙が、終日ひねもす
、遠くの野からも望まれた。 |