・・・・いやです。いやです。 たとえ、台命であろうと、この和子
は、離しません。死んでも離しませぬ。 和子は、わらわの産んだものです。いえ、いえ。父君があります。母だけのお子でもない。 頼朝公のおことばは、あなた方には、君命でしょうが、この和子に、なんの君恩がありますは。 余りといえば、無慈悲です、非道です。家もないちまたの餓鬼や無頼ぶらい
と呼ばれる者のあいだでさえも、そんな人がいるとは、聞いたこともありません。 天下を統す
べ給うて、世直しの英主みたいに、民百姓から待たれている頼朝公が、蔭では、無力な女子どもに、そんな無情を、どうして、なさるのでしょう。 わが良人つま
への、追捕ついぶ にしても、なぜかの君きみ
が、反逆人といわれるのか、分かりません。その不当を、世間が黙っているのは、ただただ、御権力が恐こわ
いからです。義経の君が悪うて、おん兄君が正しいとは、たれも思ってはおりますまい。それさえあるに、襁褓きょうほう |