天宝三年 (744) 、杜甫が三十三歳になったとき、先にも記したように、長安から李白が洛陽にやって来た。
科挙の試験に落第してから早くも十年の歳月が過ぎ、才能を抱きながら空しく壮年の日々を送っていた杜甫にとっては、たとえ今は宮中を追われて天子側近の地位を失ってはいても、名声の天下にとどろく大詩人・大先輩を目のあたりにして、その喜びはいかばかりであっただろう。
杜甫は李白に心酔した。
李白の語る花の都の長安の様子や、宮中の豪奢な生活ぶりは、杜甫の耳には夢のようにひびいたであろう。
二人の間には、十一歳という年齢の隔たりは、問題にはならなかったようである。
この年の秋から翌天宝四年の秋にかけてのほぼ一年の間、二人は一緒に旅をした。まず訪れた梁 (リョウ)
(開封 (カイホウ) ) ・宋 (ソウ)
(商邱 (ショウキュウ) ) のあたりでは、やはり浪々不遇の状態にあった岑参
(シンジン) や高適 (コウテキ)
らの詩人たちも加わって、共に酒を飲み、詩を賦して愉快な日々を過ごした。
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