「よいか、修理どのは、生命からがらこの城へ遁げ戻った。多くの家臣の生命を戦場へ捨てさせて・・・・そして、すぐ昨夜から戦評定じゃ。ご覧!
大手からも搦
め手からも、あのように続々と侍たちが城へ入って来る。十一、二歳の子供から、六十越えた年寄りまで、槍をかつぎ、鎧
を背負うて入って来る・・・・」 言われて高姫も達姫も、この三層の縁から外をのぞいていった。 陽の出たばかりの青葉がくれに、白々と城をめぐる道が光り、そこにのろのろと人の群れが続いている。 「見えるであろう。ああしてみんな城に呼び入れるは、いわずと知れた籠城
じゃ。でも、せいぜい人数は三千であろう・・・・筑前の軍隊は三万とか五万とか・・・・」 「では、城を枕に、みな討ち死にでござりまするなあ・・・・」 「それゆえにこの身は修理が憎い。何でわざわざ城に戻って、年寄りや子供たちまで、殺さねばならぬのじゃ。意地で出向いた戦場ならば、なぜ華々
しく討ち死にせぬのじゃ。権六郎どのも戻らねば、佐久間玄蕃
も戻らぬに、修理どのばかりは遁げ戻って・・・・」 そこまで言って、語調を変え、 「よいかや、そのような修理のもとで、母さまを殺してよいかどうかじゃ。高どの、そなたから、思うままを言うてみやれ」 高姫は、そのときもう泣きそうになっていた。 「では、勝つことはござりませぬか」 「あるものか。わずか三千足らずの人数では総構えの外側まで配りきれぬ。おそらく二の丸、三の丸へみんなでこもることになろう。周囲から火をかけられたら、それで終わりじゃ」 高姫は身震いして、 「母さまを助けたい!」
と、すがるように姉を見上げた。 「助ける手だてをお考え下さりませ」 「分りました。高どのの心は・・・・して、達どのは?」 達姫は、中の姉のように震えてはいなかった。きりりと締まった丸いおとがいを引くようにして、じっと上眼で青い空を見つめていた。 「私は・・・・母さまの、お心に従うがよいと思いまする」 「母さまのお心とは?」 「母さまは、もはやお心を決めておわすのでは・・・・」 「達どの」 「はい」 「お心を決めてあるとは、この城で死のうとお覚悟なされている・・・・それゆえ、そのまま殺そうとお言いやるか」 「はい」 達姫は、近ごろめっきり大人びた眼もとへ、硬い緊張を見せてうなずいた。 「母さまは、筑前に会うのが、いとわしいと申しまする。筑前は母さまに恋慕
していましたそうな。それゆえ、もし助かれば三度目の良人を持たねばならぬ。それゆえここで・・・・ろ、仰せられました。いいえ、母さま一人は殺しはしませぬ。この達も一緒
にお供しまする」 「何とお言いやる?!」 茶々姫は、きっと達姫に向き直った。 「母さまをすくう手だての相談に、こなたまで、一緒に死ぬとは何ごとじゃ。許しませぬ。それを許すほどならば、何で相談するものか。達どのは取り乱しましたな」
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