越前北の庄の天地はここ数日、全く太陽の姿を見せない吹雪の跳梁
にゆだねられていた。 どんなに雨戸を閉め切っていても、幾重にも屏風
を立てまわしてみても、朝になると枕辺に粉のような雪がつもり、夜具の襟
がまっ白になっている。 それを見ると茶々
姫はうんざりした。耳の底では絶えず風が鳴っているし、城の内は、どこもかしこも陰鬱な暗灰色。 息のつまりそうなという言葉もあったが、これはすでに呼吸をとめた死の世界のように思える。 その城へ、しかも、毎日、雪をかぶって、あちらこちらから使者がやって来たり、出て行ったりした。 (どんなにあせってみても、雪消えまではどうにもならぬのに・・・・) と、考えると、とこどき奥の母のもとへやって来る勝家の姿が、そのまま妄執
の鬼見えた。 (その鬼を、母はだんだん愛しだしている・・・・) 女というものは何というみじめなお人よしであろうか? 今朝も、茶々姫はしばらく夜具の中で、湿った襟の粉雪を見るともなしに見ていたが、やがて手をのばして、並んで寝ている高姫の鼻をつまんだ。 「まだ眠っているの、高どのは・・・・」 高姫は、まだ眠たげに、片眼を開いて、片眼を細めたまま、 「起きてみても仕方がないから・・・・」 「そうね、仕方がないとはこの事ね」 「お姉さまも、もうひと眠りなさるといい。これでは薄暗くて書物も読めませぬ」 「高どの」 「改まって、またおいたはご免
こうむります」 「まあお聞きなさい。この城に、私たちがこうしておれるのは、せいぜい春まで・・・・と、思わぬかえ」 「それは、いつもお姉さまがおっしゃっていることなのに」 「春になったら、どこへ行こうと、自分で考えないでいいのかしら?
渡り鳥でも、行く先は自分で決めます」 「お姉さまこそ決めたらいい、私はあとへついて行きます。雁
のように・・・・」 茶々姫は舌打ちして、 「高どのはいつもそこで話の腰を折る。自分で考えてみようとするものじゃ」 「考えても仕方がない」 珍しく高姫はハッキリとした口を利
いた。 「運は天に任せています」 「というと、この城の、修理
のような年齢の良人を持たされてもよいと思うのかえ?」 「仕方がありませぬ。それがあたしの運命なら、お姉さまは、どうなされます?」 こんどは茶々姫がプイッと脇を向いて黙ってしまった。 茶々姫は人一倍、よく働く頭を持っている。それだけに自分の落ち行く先が、ちかごろおぼろげに分りかけ、それが恐ろしくもあり哀しくもあった。 近ごろ母のお市の片は、義父と娘を近づけようとして、二人の間に交わされた話は何くれとなく茶々姫に洩らす。それによると、このどうにもならぬ冬の間に筑前と勝家の間の勝敗は決していって、春が来れば落城と、運命はきびしく決まったように受け取れる。 (そうなったら母や妹たちのために、私はどうすればいいのだろうか・・・・?) それが絶えず茶々姫の首を両手で締めて来るのであった。
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