太郎の歌は、小田原御前の童女のような一途さが、ついに勝頼父子に何をすべきかの理性とゆとりを取り戻させた証拠であった。 勝頼は、わが子の歌を聞くと、 「わかった太郎」 と、声をおとした。 「そうか。それが少年のこなたや御前の覚悟と分れば、思い残すところはない・・・・御前!」 ふたたび勝頼は若い妻をふり返って、 「こなたも、ここを自害の地とする心じゃなあ」 「はい、よろこんでお供いたしまする」 「そうか。それ聞いて・・・・いや、あの世でこんどは、こなたの嫌な戦はやめ、睦まじゅう契
ろうなあ」 「はい。ご決心下されて・・・・嬉しゅう存知まする」 「昌次、御前が介錯はそちに頼もう。御前はすでに法華経を開いている。新府の城を出るときから、無心な御前は・・・・今日のあるのを知っていたのだ・・・・」 そう言えば御前の前には、別に二枚の短冊がおいてあり、手には数珠
と経巻 が持たれていた。 二枚の短冊には、
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