モーツァルトの女性観と結婚観を知る上で興味深いのが、
『コシ・ファン・トゥッテ』 である。いかに愛の誓いが堅いものであっても、ちょっとした誘惑ですぐなびくもの、というこのオペラの内容は、愛のもろさと愛の誠実さを考えさせる。 モーツァルトのオペラ
『フィガロの結婚』 の場面で、ドン・バジリオは 「女はみんなこうしたもの (コシ・ファン・トゥッテ) 」 という言葉を述べる。このオペラ
『コシ・ファン・トゥッテ』 はこの言葉を作品のタイトルにしたものであ。物語の大筋は皇帝ヨーゼフ二世が考え、台本作者のダ・ポンテが脚本を書き、1790年に初演された。 おおまかな筋立ては次のとおりである。 年長の自称哲学者ドン・アルフォゾンが、女性は移り気なものと言ったところ、フェルランドとグリエルモは自分の恋人に限っては断じてそのようなことはないと、いきまく。そこでアルフォゾンは、女性の貞節の証拠は何かということで、この三人で賭けをすることになる。そこで24時間以内は、アルフォゾンの考えどおりにことを進めることにし、この二人に出征の命令が下って、ナポリを去ることになったという設定を作り、嘆き悲しんでいるそれぞれの恋人のフィオルディリージとドラベラの姉妹に一芝居を打つことにする。 二人の女性は自身の貞節の堅さを主張し、フィオルディリージは
『岩のように動かずに』 を歌う。アルバニア人に変装したフェルランドとグリエルが現れ、相手の恋人を誘惑するが、最初は失敗する。しかしこの芝居を打つなかで、二人の姉妹の気持ちが少しずつ変化を見せていく。ドラベラは変装しているグリエルモに、フィオルディリージはフェルランドにそれぞれ関心を持ちだし、ドラベラは
「私はブルネットの方が気に入ったわ」 と、フィオルディリージは 「私はあの金髪の男とちょっとだけ楽しんでみたいわ」 と心が傾く。 やがてこの主催者のアルフォゾンは二組の結婚の準備に入らせる。その時、彼女らのフィアンセが帰って来たことが報じられ、姉妹は二人のアルバニア人をかくまおうとする。最後は、これは愛を試す芝居であったことが暴露されて物語りは終わる。 この恋の戯れは、モーツァルトとコンスタンツェの愛には当てはまらないかもしれないが、恋の危うさはモーツァルト自身がアロイージアとの一件でいやというほど経験済みであった。 |