〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 

2011/04/09 (土) モ ー ツ ァ ル ト (八)

○モーツァルトのギャンブル好き

音楽家の中でギャンブル好きはそう多くない。そのなかでもモーツァルトのゲーム好きは筋金入りである。彼の愛好したゲームはビリヤードと九柱きゅうちゅう (ケーゲルシュタット) そしてファーロというトランプであるが、とくにビリヤードと九柱戯には熱中した。ビリヤードは上手でもないのに熱中して、徹夜で興じていたとの話が残っており、彼の作曲部屋の隣にはビリヤードの台が置かれているほどであった。彼は作曲の合間にビリヤード台に向かってキューで玉を突いて一喜一憂していたのである。
彼のもう一つのお気に入りは九柱戯であった。これは当時のボーリングで、9本のピンに向かって玉を転がして倒すというゲームで、18世紀末のウィーンでは盛んであった。好奇心旺盛なモーツァルトはすぐにこれにも熱中する。彼のボーリング仲間にロイトゲープがいるが、 『ホルンのための12の二重奏曲』 (K.487) はこのロイトゲープとボーリングしながら作曲した作品である。事実この自筆譜にはこのように書かれている。 「1786年7月26日、九柱戯をしながら」 面白いことにこの作品には当時のホルンでは演奏不可能な音が記譜されている。この作品は、ロイトゲープとこのゲームをしている最中にホルンの演奏技巧の事柄に話が及び、そしてモーツァルトが即座に作曲したものであるが、この演奏不可能な音はロイトゲープに向かって 「あなたは到底できまい」 ということを表現したように思われる。
そのほか、 『ピアノ三重奏曲 (K.498) 』 もこのゲームと結び付いており、そのために 『ケーゲルシュタット』 という名がこの作品に与えられている。
モーツァルトはトランプも好きで、彼が愛好したのはファーロというゲームである。ただし熱中度は前出のゲームほどではなかったが、遊ぶ時はお金を賭けていたようである。作曲の締め切りが迫っているというのに、遊びとなると何よりも優先して出かけてしまうのがモーツァルトで、遊びに費やす彼のエネルギーは大変なものであった。

「クラシック 名曲を生んだ恋物語」 著:西原 稔 発行所:講談社 ヨリ