〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 

2011/04/01 (金) ベ ー ト ー ヴ ェ ン (一)

○「不滅の恋人よ」 をしたためた純愛

恋愛の対象は貴族の女性たちだった。その女性たちに名曲を贈った恋多き音楽家、ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン (1770〜1872) 。
彼はドイツの作曲家で、ドイツのボンに生まれた。もとはオランダ系の家系で、父も祖父も音楽家であった。
1792年にウィーンに移り住み、ハイドンなどに作曲を学んだ。数々のエピソードに包まれた作曲家で、彼の劇的でスケールの大きな音楽はその当時から人々に強い感銘を与えた。
9曲の交響曲や5曲のピアノ協奏曲、ピアノ・ソナタ、室内楽など器楽作品がとくに優れている。彼のその原動力は 「愛」 だった。

○何ゆえか女性に愛される醜男
ベートーヴェンの人生を彩ったものの一つに数多くの女性との恋愛があった。肖像画をみると決して見栄えのする顔立ちとはいえないが、ベートーヴェンの強い個性は多くの女性を魅了し、また彼はいつも恋をしていた。それはあの有名な恋文 「不滅の恋人へ」 を残すことになる。
ベートーヴェンの恋愛の対象は決まって貴族の女性であった。しかし、オランダ系のしかも平民のベートーヴェンが、オーストリアの貴族の女性と結婚することは当時の社会通念からありえない事柄であったが、だからこそベートーヴェンは貴族の女性に対してますます強い憧れと恋愛の感情をもったように思われる。
数多くの貴族の女性への憧憬と情愛は数々の作品の献呈に表わされている。 『エリーゼのために』 を献呈したテレーゼ・マルファッティや、 『月光』 の曲を献呈したジュリエッタ・グイッチャルディ、 『希望に寄せて』 を献呈したヨゼフィーネ・ダイムなどの女性に彼は愛を語り、彼女らとの結婚を夢見たのである。
しかし、ベートーヴェンの顔は多くの肖像画に描かれているように、どう見ても醜男である。
しかも、彼の部屋は乱雑極まりなく、不潔であり、作曲に没頭することからきているが、彼の振る舞いはしばしば常軌を逸していた。大声で唸ったり歌ったりする様は、天才音楽家ベートーヴェンへの尊敬の念とともに、苦笑もかっていた。しかし、このベートーヴェンが何ゆえか高貴な女性の憧れの的となったのである。そして彼は美貌の貴婦人や令嬢に多くの愛を告白し、恋に胸を高鳴らせたのである。ベートーヴェンの作品は、貴族の女性に捧げられた作品が多いが、それはしばしば彼のあこがれの対象であり、愛の対象であったからである。
「クラシック 名曲を生んだ恋物語」 著:西原 稔 発行所:講談社 ヨリ
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