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2011/01/16 (日) 川崎造船・三菱造船 大争議 (三)

この日の大示威行動で、川崎造船、三菱造船の労働者は画期的な宣言を発表した。
労働者による工場管理である。

『会社側が今迄のような横暴な態度に出て、不誠実な態度を維持するのに対し、私達が又それに対抗して罷業を継続しますと、徒に日本の産業を萎靡させ、社会的不安を醸しますから、私達は要求を貫徹する迄、各々部署につき、工場の仕事をみんなで管理し、工事を進めることにします』
宣言はこう記し、労働組合運動の新戦術として会社側を震駭させた。ともあれ、労働者による工場管理の新戦術は、 『参謀』 賀川豊彦の持論だった。
『産業管理は暴力による工場占領ではない。 ── 暴に報ゆるに愛を以ってし、悪に報ゆるに最善を以ってしたのが工場管理である。労働者は容易に暴動に導くことが出来る。しかし、彼等はその暴動を希望していない。我等は会社を愛し、国家を愛し、社会を愛し、全産業を愛するが故に、破壊に代わる工場管理を採用するのだ』
『労働者新聞』 七月二十五日号には、 『工場管理』 と題した賀川豊彦のこの論文が発表されている。
三万五千人の労働者の整然たる大示威行動と、 『工場管理宣言』 に対抗した会社側の措置は、三菱造船は七月十二日から十日間、川崎造船は十四日から十日間の 『工場閉鎖・休業』 宣言だった。
労働者側は、ただちに 『工場管理の実行』 を宣言して、対抗した。
工場管理は、資本家の所有権侵害と受けとめた会社側は、官僚機構に働きかけた。
「日本の法律は、この種の行為は認めていない。もしこれを実行すれば公安維持の上から、絶対的に取り締まらねばならぬ。 ── 工場管理は単に資本家に対する不法行為のみならず、社会人心の動揺をきたすこと多大である。管理が違法である以上、宣言書の頒布も、あきらかに違法行為である」
有吉兵庫県知事は、声明した。
「会社が許可しないものは、断じて認めるわけにはいかん、強行すれば、断固取り締まるのみ!」
阪本県警部長も強硬談話を発表した。
暑い夏の神戸市は、巡査の白服で埋まった。 『軍機保持』 を理由に、各地の憲兵隊から憲兵も乗り込んできた。関東大震災の時大杉栄を暗殺する東京憲兵司令部副官・甘粕正彦注意の姿もあった。
県知事は 『治安維持』 を理由に軍隊出動を要請し、姫路第三十六連隊の歩兵一個中隊と、舞鶴海兵団から水平二百人も出動した。
労働者はひるまなかった。在郷軍人の組合員は軍服に身を固めた。
「軍隊が労働者を弾圧するなら、労働者だって軍服を着用して抵抗するぞ!」
争議は長期化した。
労働組合は様々な抵抗運動をくり広げた。生活防衛のために行商隊を組織し、オルグを兼ねて全国にくり出した。
昼間は楽しい運動会も行われた。レクレーションを通じて団結を図り、気勢をあげるためである。夜は演説会で決意を確認し、結束を固めた。賀川の演説は七十数回におよんだ。熱射病にたられ、高熱を押して壇上に立ったこともある。
『一粒の麥は死すとも ── 賀川豊彦』 著:薄井 清 発行所:社団法人 家の光教会 ヨ リ
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