江田源三に伴われ、麻鳥はすぐ、女院のお見舞に、馳
せつけて来た。 先に彦島で、御入水のあと、臥ふ
せっておられた時から、麻鳥は、お薬餌やくじ
や看護みとり のさしずに当っていたので、今初めて、几帳きちょう
深き所に、おん肌を診み まいらせるわけではない。 「お気づかいはありませぬ」 そこを退さ
がった後、彼は佐すけ ノ典侍へも、義経へも
「── かろい御風気です、お熱だにとれれば」 と言い、 「そのお熱も、さし上げる煎薬せんやく
を召されれば、今宵か、明日の間にも」 と、心配のないことを保証した。 人びとは、眉をひらいた。 でも義経は、案じられて、夜のうち、二度までも、佐ノ典侍を訪れて、そっと、おん寝息をうかがった。 その夜は、たれはばからぬ気がされたし、暗い山路の行き帰りも、義経は、なんの疚やま
しさにも問われなかった。 ── 院の御使い、大夫尉たいふのじょう
信盛のぶもり が着いたのは、その翌日だった。 信盛は義経に会い、 「先の御飛脚の状に接するや、いやもう、院のおよろこび、殿上の感嘆、ことbはにもなんにもそれは尽くせません」 と、伝えて、 「まず、御諚ごじょう
を拝されよ」 と、あらたまって、院宣を授けた。 文には。 |