捕われの平家人
たちは、旧ふる 御所に接している元の尼御所やら宗盛の陣屋址あと
に、それぞれ棟むね を分かたれて押し籠められていた。 警固の篝かが
りのほか、内には、めったに人声もなく、あちこちに見える小さい灯も、みなはかない暈かさ
を滲にじ ませてい、いとどこの囚人めしゆうど
たちの心を深い想いの底に沈ませていた。 「人はみな、わざと遠ざけた。・・・・こよいは義経とあなたと、ただ二人だけで、心おきなく話したいと思うて」 一室の暗い灯をはさんで、義経は、ここに慎つつし
んでいる平大納言時忠と対むか
いあっていた。 夕方。 伊勢が沖から吉報をもたらしたさい、果たしてそれが神器の一つであるか否かを確かめるため、時忠にも、それを鑑み
せた。 時忠も一見して、神璽にちがいない旨を答えた。 そして、落涙を久しゅうしていた。 宝剣だけは、ついにまだ不明だが、ここに神器の二品だけは返ったわけである。義経が愁眉しゅうび
をひらいたのはいうまでもない。さっそく、仮の内侍所ないしどころ
を設け、先の神鏡の小唐櫃こからびつ
とともに、それを納めた。 「・・・・ああ、これで都へ還かえ
るにも、いささかは」 その夜は義経も、これまでにない心のゆとりを覚えたのであろう。── そっと時忠の牢室ろうしつ
を訪れていた。公的には、しばしば相見ているが、戦後となって初めての、わたくし的な対面だった。侍臣も遠ざけ、今宵こそしみじみと、その人の胸をたたこうとするものらしい。 「何かと、情けあるお扱い、こうしていても、お心は蔭ながら朝夕にありがたく存じておる」 時忠が、手をつかぬばかりな姿へ、 「あいや、そう固うならずに」 と、義経はわざと、打ち解けてみせた。 「──
先に、御辺へは義経より一札いっさつ
の誓書を渡してあること。ただの生捕り人とはちがう。しかし、その儀は上洛して後、院のみゆるしを仰いで、よいように致す考えです。ここにて梶原へ計っても、また、鎌倉どのへの書をもって訴うるも、ちと事むずかしゅう思われるので」 「御意ぎょい
にまかせる」 時忠は、瞑目めいもく
がちであった。 |