戦捷
祈願きがん の儀は、お頼みまでもなく、櫛田、祗園ぎおん
の僧侶神人そうりょじにん をあげて、昼夜なくつとめている。 けれど、人為の万全も尽くしてこそ、神助じんじょ
の道は開かれよう。畏れ多い思慮おもんばか
りながら、万一のときは、幼帝にお身隠みかく
しの秘法を授け奉って、 “筑紫つくし
のみちのく” といわれる山深い奥地に、龍駕りゅうが
をかくし奉るか、壱岐いき 、対馬つしま
、あるいは、遠い南方の島へ、永劫とこしえ
に、神去りませし如く、お行方を消し奉るなどのことも、考えられぬことではない。 とまれ、われら櫛田の神人はいうをまたず、平家との由緒ゆいしょ
ふかき大宰府だざいふ の住人どもや同所の天満天神の氏僧うじそう
、別当たちも、万一、蒙塵もうじん
のことあらば、身命にかけて、みかどを匿かく
まいまいらせ、お身隠しの秘法を尽くしあわんと寄り寄り秘策を語らいおうている。 ── されば、ひとたび、御合戦利あらずと見給わば、その御遠謀あって、ゆめ、御非業ごひごう
など急がれ給わぬよう、祈り申す。またくれぐれ、御身隠しの秘授あるを信じ、あらかじめ、万策の備えお抜かりなきように、云々しかじか
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