あなたこなたと、麻鳥の姿を探していたらしく、駄五六
は、ふと、そこへ来て。 「やあ、ここにおいでで」 「駄五六か。みなは、どうしておるな」 「されば、すぐさま、てまえの指図の下に、諸所に見えた傷負てお
いの者を、かなたの農家小屋へ、運ばせておりまする」 「それや、さっそくな気転よ」 と、麻鳥は、大いに賞ほ
めてやった。 「おぬしにしては近ごろの上出来、傷負てお
いの手当ては、薬餌やくじ よりも、早いがよい。ただ早いのが肝腎だ」 「てまえも、十人の組頭、以前の駄五六では、おざりませぬでなあ」 「いやいや、以前のままな駄五六が、わしは好きだよ、憖なま
じ偉えら ぶり出すのが、そもそも、人間の業ごう
の始まり、それがつのると、こんな合戦にもなりたがる。・・・・や、むだ口をいうている時ではあるまい。なお、どこかに、救いを待っている傷負てお
いもあろうに」 麻鳥は、浜の汀へ向かって、歩き出した。 源氏方でも、死者はすぐ収容してしまったものか、どこにも余り屍かばね
は見当たらない。 「存外、討死の衆は、少なかった模様で」 「そうでもあるまい。駄五六、おぬしの踏んでいるのは、血しおの痕あと
ではないか」 「やっ、そ、そうらしい。これは、気持の悪い」 「胸が痛む。・・・・その血も、どこの妻や子に通う血しおやら」 「この辺、下を見ては、歩けませぬわい」 「避けて通れ、避けて通れ。まだ、血は血の色をしている、哭な
いている」 「おや?」 駄五六は、そこの汀なぎさ
に漂っている幾艘もの小舟の一つを、及び腰でのぞきこみながら、 「こ、この小舟の中にも一人、ころがっているわ。・・・・もう、死んでいるらしいが」 と、後ろの麻鳥へ、手招きした。 「いたか」 と、麻鳥も、寄ってみた。 ──
見ると、小舟の底に、うつ伏しているのは、まだ十七、八かと思われる童武者わらべむしゃ
であった。 身分は低い者にちがいない。萌黄もよぎ
の腹巻はらまき だけを着込み、そまつな三枚錣しころ
の兜かぶと をかぶっている。手には、太刀をかたく握ってい、顔は見えない。 「・・・・・・」 麻鳥は、舟べりを跨また
いで、童武者の体をかかえ、瞼まぶた
、脈、傷口など、慎重に診み て調べ出した。 その眸と、指先には、助かるものならなんとか助けたいとする医師くすし
の一瞬の懸命と慈悲がこもっている。── が、やがて、 「気のどくな」 つぶやいて、そっと、童武者の瞼へ、彼も瞼をとじて、何かを念じた。 すると、それまで、汀にいたまま、じっと生唾なばつば
をのんで見ていた駄五六が、 「おうっ、その顔には、見覚えがある。そうだ、菊王丸きくおうまる
にちがいない。・・・・菊王だ、菊王だ」 と、喚きだして、突然、彼も小舟のうちへ、飛び込んで来た。 |