清盛は、その中へ、帰って来た。 一族の面々は、隙間もない楯と甲冑
の守りの内へ彼を迎えて、さだめし 「抜かりのない備え立て。とくぞ、早くした」 と言われるかと思いの外、清盛は、はなはだおもしろくない顔つきであった。あたりをながめまわして、 「これはそも、たれの指図か」 と、左右へたずねた。 次男の基盛、三男の宗盛。また、次の知盛とももり
や重衡しげひら を始め、家臣では平六家長、飛騨守景負え家、そのほか、たくさんな顔が、広床ひろゆか
に、詰めていた。 「・・・・なぜ答えん。たれの令で、軍勢を狩り催したか、宗盛」 「はい」 「基盛も、なぜ黙っておるのだ」 「たれということでもございません
──」 と、基盛はっや不平顔をして、父へ言った。 「父君は、内裏にお在わ
せられ、いちいちお指図を仰ぐいとまもございませんし、我ら兄弟どもに、叔父上たちを加えて、まず、敵の先せん
を越して、早速さそく に備えおくにしかずと、皆して、決めたことでございます」 「そうか」 と、それにはうなずいて、 「──
教盛はここに見えぬの」 「いえ、おられまする。東大路に、一陣を布いて、そこの守りにつかれておいでになります。召されますか」 「うむ、呼んで来い」 すぐ、広床の二、三人が立って行った。 その間に、清盛はまた、息子たちを、質ただ
していた。 「このことは、小松谷に兄にも、相談はしているのだろうな」 「いたしました」 「小松谷の重盛は、なんと言ったか」 「父上のお指図を待てと仰せられました。しかし、事態の変によっては、軍兵の召集も止むを得まいがとの御意見でもありましたので」 「そうだろう。あれが、こんなあわて方をするはずもない・・・・」 まもなく、武者の使いをうけて、教盛もここに姿を見せていた。
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