常盤
の母の草庵そうあん は、六条の端はず
れにあった。 もちろん、老母はせでにいないし、家の中の物も、浮浪者に荒されて、何一つ残ってはいなかった。 「まあ、ここでひと晩、落着くがいい。そのうえで、自首して出ても、遅くはあるまい」 伯父は、常盤と三人の子を、牛車の箱から抱き降ろした。旅の間に用いていた夜具だの食器類だの、貧しい手まわり物も、空き家の中へ運び込んだ。 「しょうがねえな。親鳥も子鳥も、めそめそピイピイ泣いてばかりいやがって、おおかた腹が減ったんだろう。まあ待て、何とかしてやるから」 街から食べ物を買って来て、伯父は自分で煮炊にた
きし始めた。路傍の飢えに、施しでもするように、それを、あてがって、 「さ。食べろ、食べたら、ピイピイいわずに寝るんだぞ」 と、今若や乙若をしかりつけた。そして自分は、牛飼うしかい
町の仲間の家まで行くといって、出て行った。 常盤には、伯父の目的が、何にあるのか、今は、余にも分かっている。── 伯父の強欲をみたすために、大事な和子たちを抱いて、自首して出る。──
どう考えても、浮かぶ瀬がない。くちおしさの、やりばもない。 といって、自首して出なければ、老母の一命が、あやぶまれる。いや、六波羅へ名のり出る出ないにかかわらず、この幼い者たちを、手に引いたり、ふところに抱いていては、遁のが
れる道など、ありようもない。 「いっそ、ひと思いに・・・・」 と、彼女は幾たびも、母子四人の死を考えた。けれど、合戦の勝敗が見えた日の夕方、義朝が、最後によこした手紙の中の言葉が、そのたび、思い出されて来る。 |