その箇条によれば、義朝父子の身には、莫大
な賞がかけられてる、守山の源内は、はからずもその大儲おうもう
けを嗅か ぎつけたのだ。──
正月はすぐ眼の前という年暮くれ
に、これは猪しし を何十匹仕止しと
めたよりは、まとまった金になる大仕事と、興奮したのだ。 仕損じてはと、彼は近所の、のらくら者三名をかたらって竹槍たけやり
を持たせ、自分は、どぎつい長柄を引っ抱えて、頼朝の影を、追って来た。 「あれか。一人きりか、源内」 「ひとりだ」 「おかしいなあ」 「どうして」 「いま渡った土橋では、なんだか、ほかにもたくさんな馬の足跡らしいのが、うっすら見えたが」 「ばかあいえ。この大雪に、馬の足跡か何か分かるものか。とにかく、おれが見たのは、あの一騎だ。いつもの居酒屋で寝込んじまったお蔭でよ。・・・・何が、人間に、幸運になるか、知れたものじゃない」 「ありがてえ。この年の暮れへ来て、こんな福の神に会おうとは」 「やいやい。の少し急げ」 「いや、あわてないことにしよう。相手は武者だ」 「といっても、童子武者。義朝の子のひとりに違いない」 「・・・・おや?」 「な、なんだ」 「あいつ、居眠ってるぞ。たしかに、こくり、こくり」 「しめた。それじゃあ、熊くま
の子を捕るようなものだ。よしっ、おれが、やつの馬のあぶみをはね上げて、鞍くら
の向こう側へ、もんどり打たすから、てめえたちは、押しかぶさって、動かすな。縄目なわめ
はおれがかける」 源内の四肢し
は動物的な跳躍をえがいた。しかし、とたんに、頼朝の顔が、こっちを見たので、さすがに、ぎくと足をとめ、 「御曹司おんぞうし
、どこへ行かっしゃる」 と、投げつけるように言ってみた。 頼朝は、何も、答えない。 かえって、このとき、父や兄たちからはるかに退さ
がってしまったことに気づいたらしく、霏々ひひ
と舞う青じろい幻をうつつに見まわしている。 兜かぶと
も重たげな雪の眉廂まびさし の下にふと仰がれたその双眸そうぼう
の可憐かれん さ、豊頬ほうきょう
の気品などに、源内のいやし心は、いやが上にも、肋骨あばら
を破るほど、ふくれあがった。 「落人っ。降りろっ」 ひたと、鞍へ寄って、片手で頼朝の右脚のあぶみをつかんだ。 頼朝は、身をねじった。身を斜めにすれば、あぶみを上げられたぐらいで、落馬はしない。 「こ、こいつ、降りろっていうに」 源内は、もう一ぺん、力を込め、大口あいてののしった。 「痴し
れ者もの かな」 頼朝は不意に叫んだ。 手が太刀へゆくやいな、抜き打ちに、源内のあたまの真ま
っ向こう を斬り割っていた。 半眠りのまま斬ったのである。無我夢想の太刀ほどよく斬れるものはないという。わっと、相手の絶叫に、頼朝は、ほんとに眼を醒さ
ました。同時に、あたりが明るくなったように、ぱっと赤い雪を見た。 |