武者たちは、枯れ野の中に、かたまりあった。清盛を真ん中において座り込んだ。 「ひとまず四国へ落ちて、再挙を計ろうと、これまでは来たが、ここへ来て、おれはまた考え直した。四国へ渡ろうが、中国へ行こうが、それも決して、安全ではないからだ」 言っている」語調は、屈託のない、いつもの彼のままだった。 「──都の乱をよそに、身一つ安住を求めたところで、諸国の地侍も、卑劣な平氏の主従かなと蔑
んで、心からの合力などはしてくれまい。かえって源氏や信頼への徒へ、心を寄せさせる結果になる」 一応、聞き入っている顔はしているが、兵たちは、清盛が初めから四国へ落ちるつもりなどはないことを、たれもが知っているふうであった。 清盛は、彼らの眉まゆ
にたいして、自分の多言を恥じて来た。考えてみれば、彼らにとっても、個々、ここは生死の分かれ道であり、いくら自分を大将と信じていようと、今さら、びっくりするようなうかつな気持でいるわけはない。逃げたい気持なら、ここまでの間に、いくらでも脱走する機会はあったはずだ。多言は、彼らの節操と、ひそかな決意を、侮辱するようなものである。清盛は、そう気がついて、 「いや、多くを言うまい。今は言っている暇もない時だ。とにかく、たとえ百騎のこの小勢でも、心をあわせて、突き入れば、都へ入れぬことはないと思う。おれが六波羅へ帰ったと聞こえれば、たちまち、一族も群れ、味方も寄って来よう。──
どうだ、みんなの考えは」 と、その決断は、兵自身の、叫びに任せた。 兵たちは、異口同音であった、一人として、たじろぐ者はなかった。途中で加わった湯浅宗重や田辺の熊野兵まどを除いては、彼らの妻子も、みな京都の内にいるのである。 「異存ないか」 清盛は、念を押した。そして、そのあとで言った。 「だが、ここはまた、一難がある。いま聞けば、行く手の阿倍野あべの
あたりに、源氏の悪源太義平が、手勢三千を伏せて、我らを待っているという。我に優まさ
ること、三十倍の大敵だが」 すると今度は逆に、兵たちが清盛を励ましていった。もとより深く覚悟するのでなければ、都の土は踏めますまい。妻子の居る所、主人の赴かれる所、たとえ何千の敵が阻はば
めようと、一死をかけて、怯ひる
みは致しません。ござんなれ悪源太、六波羅武者の弓矢のほどを見せてくれましょう。と口々の気概であった。 清盛は安心した、今はほんとに、肚はら
がすわった。さらば、馬にも水を飼か
え。我らも腹ごしらえして、草鞋わらじ
、物の具のひもをひきしめ、阿倍野を夜半にかけて駈け抜けようぞ、といい合わせた。 充分に、身を休めて、わざと、たそがれ近くにそこを発した。 住吉の浦を浜づたいに行く百騎の影に、冬の陽ひ
が、赤々あかあか と、薄れていた。大和川を越えると、もう夜であった。 「近いぞ、阿倍野は」 戒いまし
めあって、物見の二、三騎を先に立て、やがて墨江すみのえ
、百済くだら のあたりまで来ると、行く先に、火光が見えた。ぼうと、野末の幾ヶ所にも、赤い靄もや
が煙っている。たしかに軍勢の夜陣しているかがり火にちがいない。 |