2013/03/31 (日) 暗 黒 宮 (三)
ここだけには、烈風があった。巨大な焔(ほのお) は、ちぎれては飛び、ちぎれては飛び、小さな焔の子を、無数に八方へ立ててゆく。つい一刻(とき) 前まで、上皇や妹子の君が、宿直(とのい) たちと、笑いさざめいておられた夜御殿(よるのおとど) もあたりも、烈火と黒煙(くろけむり) で、見えもしない。殿楼(でんろう) や玉舎(ぎょくしゃ) 、華廊(かろう) の勾欄(こうらん) も、火の魔の乱舞には、曠(は) れ舞台のようである。泉殿(いずみどの) の水も燃え、木々も燃え、石も地も、降りそそぐ火箭(ひや) のあらしに、鳴り沸(たぎ) っている。