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あれから、十六年。振り返ると、亡
き数に入った人々や、若やぎ育って来た者や、都の事情も大きな変りかたをして来ている。まことに、遥はる
けき過去の思いもするし、昨日今日のような心地もする。 そして、今日。 死生の盟をともにして、宮闕きゅうけつ
の下に、同陣の友となろうとは。 「・・・・・」 年も、おたがい、似たようなものだった。 源家、平家と、家系の上では、呉越の別を持っているが、ともに弓矢の族宗ぞくそう
の嫡男と生まれ、しかも今、戦争への門出である。共通する一つの時勢観を持っていたに違いない。しかしまた、その抱負と未来夢には、言い合えない相異を持っていたかもしれない。 「安芸殿の進退は?・・・・などと、さかんにうわさ立つので、義朝も実は内心、案じ申し上げていた。──
が、お姿を見て安心した。士気もいかげで、一段と振るおう」 「いや、せがれ基盛にみを、差し出しておいて、人数のまとめに、つい、思わざる遅参でした。許し給え」 「しかし、早くも宇治路において、御次男のおてがら、御満足であろう」 「いや、どうも・・・・。子どもに、先を越されて、親どもは、面映おもは
ゆいことでおざるよ」 「なんの、羨うらや
ましいことだ」 と、義朝はふと、語尾に、情操をこめて言った ── 「父や弟どもとは、敵味方に、引き裂かれておるこの義朝なぢに、くらべれば・・・・」 清盛は、はっと、満面から微笑をふき去った。基盛の功を聞いて浮いていた親心の自分を、正直に、彼に見せていたのは、心なき業わざ
であったと気づいたのである。 義朝の父為義が、六人の息子を連れて、昨夜、白河北殿の新院軍に投じたという噂は、今しがた、諸将の持ち場で聞いて来たばかりだった。──
清盛にとっても、縁故のだれかが、かまり新院方に走ってはいるが、為義父子ほど、深刻ではない。 つねの身とちがって、甲冑をよろうているせいであろう。何か、慰める言葉も、見つからなかった。 こんなときの清盛は、ひどく話題の転換に、不器用なため、妙に、ほんとの気持は、下敷きにしてしまい、ばつの悪そうな眼ばかり動かして、いるに堪えなくなるらしい。 「いや。では、また」 と、急に、そこを立ち去った。 彼の、その別れ振りが、うしろ姿までが、義朝には、ひどく共感のない、無情な、あかの他人みたいにながめられた。
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