「燭
を、持ってまいりました。開けてもよろしいでしょうか」 蔀しとみ
のすきに、灯影がゆらぎ、息子のうちの、一人らしい声がした。 たれも来るなと、いいつけてあったからであろう。為義が、はいれと言うと、年ごろ十八ばかりの、大柄な小冠者が、妻戸を開け、客と父との間に、菊燈台をおいて、退りかけた。 「待て、待て。・・・・八朗」 と、為義は、その小冠者を、傍らに止めて、さて、教長に改まって言うのであった。 「童わつぱ
のころから、悪名は高いので、ご存じかも知れませんが、これは久しく西国に追いやっていた、鎮西八朗為朝といい、わたくしの八男です。子どもは、数ありますが、軍いくさ
のまねごとでも出来そうな者は、この八朗か、長男の義朝ぐらいで、他は、さしたるお役にも立ちそうにありません。すでに、義朝は、親兄弟にも何の相談もなく、内裏方へお味方に参じ、多年、恩顧の頼長公にそむくばかりか、新院に敵対し奉ること、親としても、何とも申し開きもおざらぬ。ついては、この八朗為朝を、老骨の自分に代わって、新院のご麾下きか
にさしあげたいと思うのです。八朗をお召し下さるまいか。・・・・八朗。そちの意志は、どうだ」 「参りまする」 為朝は、大きな手を、床ゆか
について、ぎょろりと、教長を見、父を見上げた。 「父上のおん身代わりとあれば、なおのこと、よろこんで、新院の御陣へ、馳は
せ参じまする」 すると、これはまた、為義にも、教長にも、意外であったことには、とたんに、外の妻戸の蔭や、簀す
の子こ 縁えん
に、さっきから、屈かが まりあっていたらしい他の息子どもが、どやどやと、一せいに、入って来て、そこに、ずらりと、手をつかえたのであった。 「父上っ。末の八朗だけを、新院のお味方へおやりになるのは、いかがなわけですか」 「われらは、者の役に立つまいとは、余にも、心外なおことばです」 「立つか、立たぬか、この四郎頼賢も、おつかわしの上、見ていてください」 「いや、掃部助頼仲も、参じます」 「加茂六郎為宗とて、決して、父上の名を、辱かしめはいたしません。八朗が、参るほどなら、どうでも、わたくしも参ります」 教長は、唖然としており、為義も、はちきれそうな、それらの顔が、口々に自己の生命を引っ提げていう結束された若い意志の強さに、ただただあきれ見まもるばかりであった。
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