〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part T-Z』 〜 〜
エ ピ ソ ー ド で 綴 る そ の 人 間 力

2012/10/30 (火) 荒 城 の 月 明治三十四年 (1901)

廣瀬がサンクト・ペテルブルグに滞在中、竹田で少年年時代を過ごしたたき 廉太郎れんたろう が政府の音楽留学生としてドイツのライプチッヒに滞在していた。
廣瀬と瀧との間に面識があったかどうかわからないが、海軍の軍服を着て颯爽さっそう と竹田に帰省した廣瀬の姿に、瀧は子供心に憧れていたようだ。
そんなことから、瀧は廣瀬宛に、自分が日本を離れる直前に作曲した 「荒城の月」 の楽譜を送った。
楽譜の読めない廣瀬は、これを恋人のアリアズナに見せ、ピアノで演奏してもらった。その旋律はロシア民謡にも似てもの悲しく、ふるさと竹田の風景、岡城の姿をまざまざと蘇らせてくれた。
この曲は、東京音楽学校 (現東京芸術大学) から発表されたばかりであり、日本国内でもまだ広く知られていない時であったから、廣瀬は日本人としていち早く、しかも外国でこの曲を聴いた最初の日本人ということになろう。

著:櫻田 啓
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