また、ゆたかに乗物
つらせて、女いまだ十三か四か、髪梳す
き流し、先をすこし折りもどし、紅くれなゐ
の絹たたみて結び、前髪、若衆わかしゆ
のすなるやうに分けさせ、金元結きんもとゆひ
にて結ゆ はせ、五分櫛ごぶぐし
の清らなる挿さ し掛け、まづはうつくしさ、ひとつひとついふまでもなし。白繻子しろしゆす
に墨形すみがた の肌着、上は玉虫色の繻子しゆす
に、孔雀くじゃく の切付きりつけ
見え透す くやうに、その上に唐糸からいと
の網あみ を掛け、さてもたくみし小袖に、十二色の畳帯たたみおび
、素足に紙緒かみを の履物はきもの
、浮世笠うきよがさ 跡あと
より持たせて、藤の八房やつぶさ
つらなりしをかざし、見ぬ人のためといはぬばかりの風儀ふうぎ
、今朝から見み 尽つく
せし美女ども、これにけおされて、その名ゆかしく尋ねけるに、 「室町むろまち
のさる息女そくぢよ 、今小町いまこまち
」 といひ捨てて行く。花の色はこれにこそあれ、いたづら者とは、後のち
に思ひあはせ侍はべ る。 |