間もなう、その跡
より、十五六、七にはなるまじき娘、母親と見えて、左の方に付き、右の方に、墨衣すみごろも
着たる比丘尼びくに の付きて、下女あまた、六尺供とも
をかため、大事に掛くる風情ふぜい
、さては、縁付えんづきい 前かと思ひしに、鉄漿かね
付けて眉なし。顔は丸くして見よく、目に利発りはつ
顕あらは れ、耳の付きやうしをらしく、手足の指ゆたやかに、皮薄かはうす
に色白く、衣類の着こなし、又あるべからず。下に黄無垢きむく
、中に紫の地なし鹿か の子こ
、上は鼠?子ねずみじゆす に百羽雀ひやくばすずめ
の切付きりつけ 、段染だんぞめ
の一幅帯ひとはばおび 、胸開あ
け掛けて、身振りよく、塗笠ぬりがさ
にとら打ちて、千筋紙縒せんすぢごより
の緒を を付け、見込みのやさしさ。これ一度見しに、脇顔わきがほ
に横に七分あまりの打疵うちきず
あり。さらに、生れ付きとは思はれず。 「さぞその時の抱姥だきうば
をうらむべし」 と皆々笑うて通しける。 |