大方は女中乗物
、見えぬが心にくし。乱れ歩あり
きの一群むれ 、いやなるもなし。これぞと思ふもなし。
「とかくはよろしき女ばかり書きとめよ」 と、硯紙すずりかみ
取り寄せて、それを写しけるに、年の程三十四五と見えて、首筋くびすぢ
立ちのび、目の張りりんとして、額ひたい
の生は え際ぎは
、自然とうるはしく、鼻、思ふにすこし高けれども、それも堪忍かんにん
ごろなり。下に白?しろぬめ の引返ひつかへ
し、中に浅黄?あさぎぬめ の引返ひつかへ
し、上に椛?かなぬめ の引返ひつかへ
しに、本絵ほんゑ にかかせて、左の袖に吉田の法師が面影おもかげ
、ひとり燈ともしび のもとに古き文など見ての文段もんだん
、さりとは子細しさい らしき物好ものごの
み、帯は敷瓦しきがはら の折り天鵞?びろうど
、御所被衣ごしよかづき の取りまはし、薄色の絹足袋、三筋緒みすぢを
の雪踏せつた 、音もせず歩あり
きて、わざとならぬ腰のすわり、 「あの男めが果報」 と見る時、何か下々したじた
に物をいふとて、口をあきしに、下歯一枚抜けしに恋を覚さま
しぬ。 |