「来ル十六日に、無菜
の御斎とき 申上まうしあ
げたく候。御来駕らいが においては、忝かたじけな
く奉存ぞんじたてまつり 候。町衆ちやうしゆ
、次第不同、麹屋かうぢや 長左衛門」
。 世の中の年月の立つ事夢まぼろし、はや、過ぎゆかれし親仁おやぢ
、五十年忌になりぬ。我ながらへてこれまで弔とむら
ふ事うれし。古人の申し伝へしは、 「五十年忌になれば、朝は精進しやうじん
して、暮くれ は魚類になして、謡うたひ
、酒盛さかもり 、その後はとはぬ事」
と申せし。これが納をさ めなれば、すこし物入りもいとはず、万事その用意すれば、近所の出入りの嚊かか
ども集まり、椀わん 家具かぐ
・壺・平ひら ・るす・ちやつまで取りさばき、手毎てごと
にふきて膳棚ぜんだな に重ねける。
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