されば、一切
の女、移り気なる物にして、うまき色咄いろばなし
に現うつつ をぬかし、道頓堀だうとんぼり
の作り狂言をまことに見なし、いつともなく心をみだし、天王寺てんわうじ
の桜の散り前、藤の棚のさかりに、うるはしき男にうかれ、帰りては、一代養ふ男を嫌ひぬ。これほど無理なる事なし。それより、よろづの始末心しまつごころ
を捨てて、大焼きする竈かまど
を見ず、塩が水になるやら、いらぬ所に油火をともすもかまはず、身代しんだい
のうすくなりて、暇の明くるを待ちかねける。かやうの語らひ、さりとはさりとは恐ろし。死しに
別れては、七日も立たぬに後夫ごふ
をもとめ、去られては、五度七度の縁付き、さりとは口惜しき下々したじた
の心底しんてい なり。上々うへうへ
には、仮かり になまき事ぞかし。女の一生にひとりの男に身をまかせ、さはりあれば、御若年ごにやくねん
にして河州かしう の道明寺だうみやうじ
、南都なんと の法花寺ほつけじ
にて、出家をとげらるる事もありしに、なんぞ、かくし男をする女、浮世うきよ
にあまたあれども、男も名の立つ事を悲しみ、沙汰さた
なしに里へ帰し、あるいは、見付けて、さもしくも金銭の欲にふけて、?あつか
ひにして済まし、手ぬるく命を助くるがゆゑに、この事の止みがたし。世に神あり、報むく
いあり、隠しても知るべし、人恐るべきこの道なり。 |