ようやく秋の日も山崎のあたりに落ちかかり、淀川堤
の松並木の木陰伝いに半分ほど行った所に、めかしこんだ男が、人待ち顔で、丸葉柳の根元に腰掛けているのを、近づいて見ると、それが約束をした樽屋たるや
であった。 不首尾ふしゅび
を目くばせで知らせ、後あと や先になって行くとは、思いもよらぬ手違いである。嚊は樽屋に言葉をかけて、
「あなたも伊勢参りと見えまして、しかもおひとり、気立てもよいお方とお見受けしました。私どもと一緒の宿に」 と言うと、樽屋は喜んで、 「旅は道連れ世は情けとか申します。万事お頼み申します」
と言えば、久七いっこうに納得のいかぬ顔をして、 「どこの誰とも分からぬ者を、ことに女の旅の道連れにはとんでもない」 と言う。嚊は親切そうな声を出して、 「神様はお見通しじゃ。おせん殿には、あなたという頼もしい男がついている。何の気遣いがありましょう」
と、出発の日から、同じ宿に泊り、思いのほどを語らせる機会をうかがっていると、久七は気をつけて、間あい
の戸障子をはずして部屋を一つにし、据風呂すえぶろ
にはいっても、首を出して覗のぞ
き、日が暮れて眠る時にも、四人が同じ枕まくら
を並べるのだった。 |