濁
り水大方おほかた かすりて、真砂まさご
の上あ がるにまじり、日外いつぞや
見えぬとて、人うたがひし薄刃うすば
も出、昆布こんぶ に針さしたるもあらはれしが、これは何事にか致しけるぞや。なほ探し見るに、駒引銭こまひきぜに
、目鼻なしの裸人形はだかにんぎやう
、下くだ り手のかたし目貫めぬき
、継ぎ継ぎの涎掛よだれかけ 、さまざまの物こそ上あが
れ、蓋ふた なしの外井戸、心もとなき事なり。 次第しだい
に涌水わきみず 近く、根輪ねかわ
の時、昔の合釘あひくぎ はなれてつぶれければ、かの樽屋たるや
を呼寄よびよ せて、輪竹わたけ
の新しくなしぬ。 ここに流れゆくさざれ水をせきとめて、三輪みつわ
組ぐ む姿の老女、生ける虫を愛しけるを、樽屋、
「何ぞ」 と尋ねしに、 「これは、ただ今汲み上げし井守ゐもり
といへるものなり。そなたは知らずや、この虫竹の筒つつ
に籠こ めて煙けむり
となす、恋ふる人の黒髪にふりかくれば、あなたより思ひ付く事ぞ」 と、さもありのままに語りぬ。 |