重盛は、暫
く合戦して、敵てき をたばかり出い
だし、引ひ き退しりぞ
く。悪源太、勝かつ に乗の
りて追お つ駆か
けければ、重盛の馬の草分くさわき
、太腹ふとばら を篦深のぶか
に射い させ、馬頻しき
りに跳は ねければ、堀川ほりかは
の材木ざいもく の上に下お
り立ちたり。鎌田かまだ 兵衛びやうゑ
、川を馳は せ渡わた
して、馬より下り重なりて、重盛に組まんとしけるを、重盛の郎等らうどう
、与三左衛門尉よさうざゑもんのじよう景泰かげやす
、鎌田にむずと組む。上になり、下になり、組み合ひけるを、与三左衛門、上になり、鎌田を取り押さへける所に、悪源太、馳は
せ寄よ りて落お
ち重かさ なり、与三左衛門を討ち取る。下なる鎌田を引き起こし、やがて重盛に打ち懸かりける所に、重盛の郎等、進藤しんどう
左衛門尉さゑもんのじよう 、少し隔たって控へたりけるが、これを見て、鞭鐙むちあぶみ
を合はせて馳せ寄り、材木の際きは
にて飛び下り、重盛を掻か き乗の
せ、轡くつわ を東ひがし
へ向けて鞭打ちて、 「延の びさせたまへ」
と云い ひけるを最後にて、主しゆ
と背中うしろ 合あ
はせになり、悪源太に打ち懸かり、さんざんにぞ戦ひける。悪源太が打ちける太刀たち
に、甲かぶと の鉢はち
を甚いた う打う
たれ、がはと辷まろ びながら、太刀をも捨てず、起き直らんとしけるを、鎌田、落ち合ひて、取りて押さへて首を取る。二人の郎等が討ち死にしける間あひだ
にぞ、重盛、遥はる かに延の
びにける。 |