悪源太義平は越前国足羽まで下っていたが、内海で義朝が討たれたということを聞いたので、
「これでは将来がおぼつかない。平家は親の敵だから、せめて一人でも狙って討ちたいものよ」 と思い、足羽からただ一人都へ上り、平家の隙を狙っていたところ、義朝の侍に出会った。この男は、丹波国の住人、須智六郎景純という者である。末座の者なので、平家から狙われることもなく、その上縁あって、平家に奉公していた。悪源太が
「どうした。お前は景純か」 と尋ねたところ、 「さようです」 と答える。 「どこにいるのか」 と聞いたところ、 「わが身大事さに、源氏の御代になるまでの間の辛抱とと考えて、平家に仕えています」
と言う。 「これまで縁を忘れないだろうな」 と聞くと、 「どうして忘れることがありましょう」 と答える。 「それでは義平の頼みを聞いてくれ。親の敵ゆえ、一人でも平家の者を狙って討とうと思う」
と頼むと、 「かしこまりました」 と答える。そこで、 「お前を主人にして、義平を下人にしてくれ」 と言い、須智六郎が六波羅に出仕する時は、蓑や笠、履物などを持って門のあたりをぶらぶらして、敵を狙ったが、平家は目下勢いが盛ん、かたや、運に見放された自分はたった一人であるので、うまく狙うことも出来ないありさまだった。三条烏丸に宿をとっていた。宿の主人が、
「あの両人、主と称する男の動作の無骨さといったらない。もの言う言葉つきも下品そのまま、ところが、下人と称する男の動作はまことに立派で、またもの思いにふけっている様子もただ者ではない。主を下人にして、下人を主にしたならば、ともにそれぞれにふさわしく、いいのに」
と言ったが、よほど奇妙だったのだろう。 |