さて、玄光は鷲栖に留まり、金王丸は都に向かった。そして、常葉の宿所へ行き、事件のことを報告したところ、
「都を落ちなさるということで、 お前を使いとして、 『内々会いたいことだが、敵は続々とやって来るし、ゆっくりする間もないので、都を出ることにした。東国から迎えの者を寄こそう。その時は、幼い子供たちを連れて下るように』
とおっしゃたので、 『私を思う気持が薄いので、ちょっとでも立ち寄る暇もないのでしょう。東国へ下ることが出来た時は、まずこのことを申しあげよう』 と思っていたのに、それも出来なくなってしまったことが悲しい」
と歎いた。 今若といって七歳、乙若といって五歳、牛若といって二差になる子がいた。 牛若殿は、幼いので、何もわからずにいたが、七つと五つになる幼い子は、金王丸の袂に取り付いて、
「父はどこにいらっしゃるの、我らを連れて行って」 と泣く。金王丸も涙を流して、 「突然の使いなので、明日お迎えに参りましょう」 と、あれこれ言いつくろって、別れを告げて走りその場を立ち去って、ある山寺で髻を切り、法師になって、諸国七道修行して、義朝の御菩提を弔った。本当に主君思いのことである。 |