関の者どもが、二、三人舟に乗り移り、柴を取り除けた。玄光は、
「もうだめだ。皆にも自害させ、自分も腹を切ろうと思う。左馬頭殿が落ちのびるのに、五十騎、三十騎の軍勢を連れないことがあろうか。この法師ぐらいの者を頼りにして、小舟、柴木の中に積み籠められて、お前たちに探し出されて、つらい目に遭おうなどと、思われるはずがない。たとい、ここにいらしたにせよ、もう今ごろは自害なさっていることだろう。よく探せ」
と言う。頭殿これを聞いて、鎌田に耳に口を当てて、 「これは自害せよという言葉だ。さあ、自害しよう」 と言ったところ、鎌田は、 「ちょっとお待ちくだされ」 と答えた。関屋の中から、兵一人出て来て、
「確かに、左馬頭殿が落ちのびなさるには、どんなに無勢といっても二、三十騎は供するのがあたり前。この法師ほどの者を頼りにして、この舟に乗って下ろうとは思われない。早く通してやれ」
と命じて、柴木をもと通り積み上げて、 「早く下れ」 と言うが、玄光はわざと急いで下ろうともしない。 玄光は、 「法師の職らしくもないが、柴木を川下に下して売り払い、妻子を養っているので、月に五、六度はこの川を上り下りしている者よ。どうか、これからは無事に通してくだされ」
とおどけて言い、 「また探られたらたまらない」 とばかり、舟を早く下した。 |