六つの子は歩き疲れたらしく、無邪気に、母の膝の辺りに寄り添って寝ていた。しかし、八つの子は、父義朝の事も忘れられず、母も悲しみの涙の尽きないのを見て、気がかりなことが多く不安で、一瞬たりといえども眠ることが出来なかった。壁に向かって横たわり、こらえようとするのだが涙は流れ出てきてとまらない。夜も更けて、人が寝静まったのを見はからって、母は八つの子の耳にささやいて、
「ああ、何ともむごいことよ。世間の人は、十人、二十人の子を育てることがあつという。夫々の宿運で、死の到来はまちまち、後れ先立つことなどこのつらい世では当然のことながら、それでも、同じぐらいの年齢、ともに白髪姿になるまで兄弟揃って生き長らえ、亡き両親の回向をするということだってあるのです。明日はどんな者の手にかかって、どんな目に遭うことだろうか。水に沈められるのだろうか、土に埋められるのだろうか。お前を頼りにし、そして育てる苦労あるというのも、何時まで許されることか、夜が明けたらどうなるか、気がかりでなりません」
と泣く泣く口説いた。今若は、 「もし私が死んだら、母者はどうなさいますか」 と言ったところ、母は、 「お前たちに先立たれでもしようものなら、一日、一瞬たりといえども、耐えていることなど出来ようはずがありません。せめて一緒に死にたいものです」
と答えるので、今若は、 「どこまでも一緒と、母も一緒に死んでくれるなんて嬉しいことよ。母者さえ一緒だったら、命だって惜しくない」 と顔を寄せ合い、手を取り合って泣き明かした。春の夜は短いとは言いながら、うつうつとして朝が待ち遠しくてならない。ようやく暁の空になったらしく、鶏の八声も寺の鐘の音も聞こえてきた。 |