その後
は心まかせになりて、吉三郎寝姿ねすがた
に寄添よりそ ひて、何とも言葉なく、しどけなくもたれかかれば、吉三郎夢覚めて、なほ身をふるはし、小夜着こよぎ
の袂たもと を引きかぶりしを引退ひきの
け、 「髪に用捨ようしや もなき事や」
といへば。吉三郎せつなく、 「わたくしは十六になります」 といへば、お七、 「わたくしも十六になります」 といへば、吉三郎重ねて、 「長老様がこはや」 といふ。
「おれも長老ちやうらう 様はこはし」
といふ。何とも、この恋はじめもどかし。後は、ふたりながら涙をこぼし、不埒ふらち
なりしに、又、雨の上あが り神鳴かみなり
あらけなく響きしに、 「これはほんにこはや」 と、吉三郎にしがみ付きけるにぞ、おのづから、わりなき情なさけ
深く、 「冷えわたりたる手足や」 と、肌はだ
へ近寄せしに、お七恨みて申し侍はべ
るは、 「そなた様にも憎からねばこそ、よしなき文給はりながら、かく身を冷やせしは誰た
がさせけるぞ」 と、首筋に食ひつきける。いつとなく、わけもなき首尾しゆび
して、寝れ初そ めしより、袖は互たがひ
に、限りは命と定めける。 |