かくて今歳
は既に暮れぬ。明くる三年をば、改元ありて、保元
元年とぞ申しける。 その春夏のころより、法皇
、御心地 例に背
かせたまひ、玉顔
不予 に入らせたまふ。これは、去年
、近衛院 御隠
れありしかば、その御歎きの積もりにこそとぞ申しあへりける。されども、法皇は、権現
の御託宣 、去年の冬の事なれども、只今
のやうに思 し召
し出 でられて、且
はかたじけなく、且はあぢきなくぞ思し召されける。 月日の重
なるにつけて、いよいよところ狭
きさまに見えさせたまひければ、同六月十二日、美福門院
、鳥羽 の成
菩提院 の御所にて、御髪
下 させたまふ。御戒の師は御滝
の観空 上人
とぞ聞えし。百四 羯摩
の作法 は、いつも心澄む事なれども、折からや、御所中
の女房 男房
、公卿 殿上人
、皆 涙を流し、袖
を絞らぬはなかりけり。 |