〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part T-U』 〜 〜
あ らす じ

2012/05/02 (水) 為朝の生け捕りと遠流の事

そのころ八郎為朝は、近江国おうみのくに (滋賀県) に隠れていた。為朝は鎮西ちんぜい に下り、九州の者どもを率いて都へ攻め上ることを考えていたが、重病にかかってしまい、ある所の湯屋ゆや で治療していたところを、居合わせた者が密告したので、三百余人の兵たちが湯屋を取り囲み、浴室に乱入して逮捕たいほ しようとした。為朝は前後左右から寄る者どもを、つかみ殺し しつぶし、首をねじ切って投げ出すなど、暴れまわったが、長い重病のあとではあり、手足がすくんで走り仆れたところを、ついに生け捕りにされてしまった。
やがて公卿の評議があって、伊豆国いずのくに (静岡県) に流されることになる。そのとき、信西が申すには、 「この為朝は内裏に火を放って、天皇の御輿みこし に矢を参らせようなどと放言した奴、その罪重い上に、再び朝敵になるおそれがある。今後弓を引かせぬように、はからうがよい」 と、義朝に命じて左右の腕をのみ で打ち放ち、そのすじ を抜いてしまった。しかし為朝はこれをものともせず、伊豆に着いた後も、人を人とも思わず勝手のしほうだい、為朝の預かり役、伊豆国大介狩野おおすけかのの 工藤くどう 茂光しげみつ も、まったくもてあましてしまった。

『保元物語・平治物語』 発行所:角川書店  ヨ リ
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