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あ らす じ

2012/05/02 (水) 為 義 、けん さく の 事

そのころ新院の御所では、左大臣や為義をお召しになり、世間のことをのんびりとお話し合いになっていた。為義が申すには、 「内裏に集まった兵どもの数は多いと申せ、それだけのことでございます。為義の軍勢でもって必ず防戦いたします。また万一の場合には、南都に御幸なさって、宇治川を前にささえ、しばし様子を御覧下さいませ。それもかなわぬ時には東国へ御幸あって、足柄あしがら や箱根の山をうちふさぎ、関東八ヶ国の源氏を召し集めますれば、都へお帰し申し上げることなどは何ほどのこともございません」 と申し上げるが、左大臣は、 「天孫にまします君を、他所へお移しすることなどあってはならに。せいいっぱい忠勤を励み、朝恩におこたえすべきである」 と仰せられたので、為義は、 「こうなった上は命を捨てて、どうともいたす覚悟でございます」 と申し上げて立ち上がったが、その姿はまことに頼もしく思われた。

『保元物語・平治物語』 発行所:角川書店  ヨ リ
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