〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part T-U』 〜 〜
あ らす じ

2012/04/30 (月) 左 大 臣 頼 長 の 上 洛

一方、左大臣は宇治にいたが、新院の白河殿御幸を知って急ぎ参殿した。わが身は粗末な張輿はりごし にかくれて乗って遠廻りし、自分の牛車にはかん 登宣のりのぶ山城前司やましろのぜんじ重綱しげつな の二人を乗せ、左大臣殿の参殿といつわって六波羅の前を通らせた。兵たちは、はたして左大臣殿のお通りだと思い、この牛車を押えたが、信西ははやくもこれを覚って、 「左大臣ではない、そのまま通せ」 といって通してしまう。牛車の二人は白河殿に着くなり、「おそろしや、おそろしや。すんでのことに鬼の餌食えじき になるところだった」 と、ふるえあがった。
同じく七月十日、新院は白河殿から、さらに北殿きたどの へお移りになる。北殿の南にある大炊おおい 御門みかど には、東西二つの門があったが、東の門をたいらの 忠正ただまさ多田ただの 頼兼よりかね が警固し、西の門は八郎為朝一人で守護することになった。また西にし 河原かわら おもて の門は子供たちを引き連れて為義が固め、北面きたおもてたいらの 家弘いえひろ が承った。
さて、新院は為義を召されて合戦の手だてをお尋ねになったが、為義は辞退して為朝を推挙したので、いよいよ為朝が召し出される事になった。

『保元物語・平治物語』 発行所:角川書店  ヨ リ
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