中将いみじく信じて、頬杖 (ツラヅエ) をつきてむかひゐたまへり。法の師の、世のことわり説き聞かせむ所のここちするも、かつはをかしけれど、かかるついでは、おのおの睦言
(ムツゴト) もえ忍びえとどめずなむありける。
「はやう、まだいと下 (ロウ) にはべりし時、あはれと思ふ人はべりき。聞こえさせつるやうに、容貌などいとまほにもはべらざりしかば、若きほどのすき心には、この人をとまりにと思ひとどめはべらず、よるべとは思ひながら、さうざうしくて、とかくまぎれはべりしを、もの怨
(エン) じをいたくしはべりしかば、心づきなく、いとかからで、おいらかならましかばと思ひつつ、あまりいと許しなく疑ひはべりしもうるさくて、かく数ならぬ身を見も放
(ハナ) たで、などかくしも思ふらむと、心苦しきをりをりもはべりて、自然に心をさめらるるやうになむはべりし。
この女のあるやう、もとより思ひいたらざりけることにも、いかでこの人のためにはと、なき手をいだし、後れたる筋の心をも、なほくちをしくは見えじと思ひはげみつつ、とにかくにつけて、ものまめたやに後見、つゆにても、心に違ふことはなくもがなと思へりしほどに、進めるかたと思ひしかど、とかくになびきて、なよびゆき、みにくき容貌をも、この人に見やうとまれむと、わりなく思ひつくろひ、うとき人に見えば、おもてぶせにや思はむと、憚
(ハバカ) り恥ぢて、みさをにもてつけて、見馴るるままに、心もけしうあらずはべりしかど、ただこの憎きかた一つなむ、心をさめずはべりし。
そのかみ思ひはべりしやう、かうあながちに従ひおぢたる人なめり、いかで懲 (コ)
るばかりのわざして、おどして、このかたもすこしよろしくもなり、さがなさもやめむ、と思ひて、まことに憂 (ウ)
しなども思ひて絶えぬべきけしきならば、かばかり我に従ふ心ならば思ひ懲 (コ)
りなむ、と思うたまへ得て、ことさらに情なくつれなきさまを見せて、例の腹立ち怨 (エン)
ずるに、
『かくぞおぞましくは、いみじき契り深くとも、絶えてまた見じ。限りと思はば、かくわりなきもの疑ひはせよ。ゆくさき長く見えむと思はば、つらきことありとも、念じてなのめに思ひなりて、かかる心だに失せなば、いとあはれともなむ思ふべき。
人なみなみにもなり、すこしおとなびむに添へて、またならぶ人なくあるべきやう』
など、かしこく教へたつるかなと思うたまへて、われたけく言ひそしはべるに、すこしうち笑ひて、
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