2016/06/27 (月) | 螢
(十一) | 西の対の玉鬘の姫君の御様子を、内大臣の柏木
の中将はたいそう深く心にかけて、言い寄るために仲立ちにした女童のみるこも頼りないので、この中将の君の泣きつきましたけれど、 「他人ひと
のこととなると、恋愛沙汰などは、つい悪口を言いたくなるものですよ」 と、そっけなく返事をなさるのでした。このお二人は昔の父大臣たちの御間柄に似ていらっしゃいます。 内大臣は、北の方をはじめ多くの夫人たちにそれぞれお子たちが大勢お生まれになりました。その母方の声望や、本人のお人柄に応じて、また内大臣の何事も思うままになる名声や御威勢によって、皆ひとかどの地位につけていらっしゃいます。 娘はそう多くいらっしゃらないのに、弘徽殿こきでん
の女御も中宮にとあれほど御期待していられたところが、秋好む中宮に先を越されて、雲居の雁の姫君も、東宮妃にともくろんでいたのに、ああして思い通りにならない有り様ですから、たいそう口惜しがっていらっしゃいます。 あの撫子なでしこ
の歌を残した女との間に生まれた娘のことをお忘れにならず、あの雨夜の品定めにも、その女のことはお話しになったほどなので、 「あの娘はどうなったことだろう。なんとなく頼りなかった母親の考えから、可愛らしい子だったのに、とうとう行方不明になってしまった。だいたい、女の子というものは、どんなことがあっても目を離してはいけなかったのだ。利口ぶって、わたしの子だと名乗って、今頃はみじめな境涯に落ちぶれさまよっているのではないだろうか。たとえどんな暮らしをしているにせよ、娘だと言って来てくれたら」 と、しみじみなつかしがり、心にかけつづけていらっしゃいます。御子息たちにも、 「もし、わたしの子だと名乗る者がいたら、聞き逃さないようにな。若い頃、浮気心にまかせて、よくない振る舞いもたくさんあったが、その中で、この子の母親は、全くそんな軽々しい気持ではなく愛していたつもりだったのに、つまらない事に気をくさらせて、自分から身を隠してしまったのだ。それで何人といない娘を一人失くしてしまったのが残念で」 と、いつもお話しになります。もっとも、一頃などはそれほどでもなくお忘れになっていられたのですが、源氏の君や他の人々がそれぞれに姫君を大切に養育していらっしゃるので、御自分だけが思い通りにならないにが、実に気に入らず、不本意に思っていらっしゃるのでした。 夢を御覧になって、夢占いの上手な者を呼ばれて、判断させてごらんになりますと、 「もしかしましたら、長年お気づきでいらっしゃらなかったお子さまが、誰かの養女になっていて、そのことでお耳になさっていることがございませんでしょうか」 と申し上げましたので、 「女の子が、人の養女になることはめったにあるものではない。一体どういうことなのだろうか」 などと、この頃は、何かにつけてそのことをお考えになったり、話題にもなさるようです。 |
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| 源氏物語
(巻五) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ | |